アプフェルシュトゥルーデル

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なんだか舌を噛みそうな名前だが、ウィーンの伝統お菓子なのだそうだ。どうして作ったのかといえば、りんごに火を通したものを食べたかったので。シナモンを効かせて、甘くて酸味のあってとろっとしたものを。だからアップルパイでもいいし、ただりんごだけ煮てもいいのだけど、なんとなくこんなお菓子があったことを思い出して作ってみた。

小麦粉を練った生地を薄く薄く延ばして、具材を巻き、溶かしバターを塗りながら焼くというのが、このお菓子の作り方で、薄く延ばすというところが難所である。薄ければ薄いほど良い。だからこれはそんなに出来が良い方ではない。でもかまわない。こんな厚くて固い生地はよけて食べればいいのだ。なぜなら食べたかったのはりんごに火を通したものだからだ。


西川町まで(今年の乗り納めに)

20131211

 

ふと気がつくと雨が降っていない休日なのであった。12月の半ばだった。雨も雪も降っていないということは、自転車にも乗れるのではないかと思った。そんなことをわざわざ頭で考えて確認するのは、それだけ自転車から遠ざかっていたからだ。なにしろ冬なのだ。さらに、乗れるなと確認がとれてからよっこらしょと腰を上げるまで数秒かかった。なにしろ冬なのだ。

腰を上げてみたものの、冬の格好というのがよくわからない。だって真冬は雪で乗れないし乗らないつもりでいるのだから、厳寒に備えた装備も持っていない。あるだけのものを身につける。シューズにつま先だけのカバーを、手には厚手のグローブを。上着は、風は防ぐもののあんまり厚手ではないハードシェルのジャケットにウィンドブレーカーを羽織って中にユニクロのヒートテック下着を2枚重ね着した。

それでも寒いだろうかとおっかなびっくりで走り出したら、けっこう寒くはなかった。というより暑いくらいだった。ヒートテックが明らかに余計…。

20131211

 

一ヶ月ぶりの自転車乗りなので、体力的にもきつい。最初のうちは案外スピードに乗っていけるな、と思いきや、後半になってとたんに疲れが出るもんで、疲れて足が動かなくなってくると寒さもにじみ出てくる。ひと夏かけて走り込んだ状態を10だとして、一ヶ月乗らなかったらゼロに戻ってしまう。ひと冬乗らなかったらマイナス。だから、この冬はなにかトレーニングをやって、せめて3か4くらいは保ちたいと思うのだが…。

20131211

 

折り返し地点をどこにするかで迷いつつ、西川町の道の駅までやってきた。ここは初めて立ち寄ったかもしれない。簡単なうどんかなにかを食べたかったが、ちょっといいレストランはあるのだが、軽食を出すようなところがない。隣の温泉の建物の方にラーメンののぼりが出ていたのでそちらに行った。有り金ぜんぶ出して、山菜うどんとパン1個買った。もう少しお金を携行してくればよかったといつも思うのだが、出発するときになると5百円玉1枚しか持たないで出てしまう。

20131211

 

そろそろヘルメットを新調したいと思っていた。wiggleを見ていたらたいへん安いヘルメットがあったので勇んでポチったら、届いたSサイズのそれには頭が入らなかった。ウェアは一番小さいSかXSサイズを買っていればいいので、ついその感覚で注文してしまった。いま使っているものはMサイズだった。

その後、まだ買い直しもせずにいる。どうせなら一番安いやつではなく、とってもグレードの高い(そして値段も高い)やつを買おうかな、などと考える。GiroのAir Attackも気になる。でも夏は暑そうだとか、いろいろ考えるが、結局安いのでいいような気もする。春になったらそのときの気分で買おうっと。

20131211

 

この自転車の日の次の日だったか、急に雪が降った。というよりもこの日晴れていたのが例外的だったのだ。

 


ラフランスのタルトと失われた時間

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ただひたすら暗く淀んだ曇天というのが、この時期の山形の決まった空模様であるようだった。寒かったが、厚着をしていれば耐えられないほどではない。本格的な寒さはまだこれからなのだ。厚着をしない人は寒いと言った。ときおり、気まぐれに日差しが出ていながら雨粒が落ちてくるという、ちぐはぐな天候になった。夜には当たり前に冷え込んだ。

雨さえ降らなければ週末などは自転車乗りなどをしたいところなのだが、その週末の時間さえもがどこかに吹き飛んでいった、というのがこの11月だった。ただ、その失われた時間のすべてが悪いように使われたわけではなかった。すべてが良いように使われたわけでもなかった。

お菓子をつくるのに充てられた時間は良い時間なのか悪い時間なのか判然としなかった。

 

お菓子つくりはまあ他愛もない趣味の一つなのだが、人に食べてもらうことを前提にしてお菓子をつくっているのではなかった。つくることそのものを楽しむため、というのもちょっと違う。空いた時間の手慰みからはじめたもので、なんでも良かったのだ。しいていえば、なにかかっこいいものをつくりたかった(でもお菓子ってかっこいいか?)。とまあ、つくる動機は自分でも曖昧なのだが、とにかく人に食べさせたいという気持ちはあいにく持ち合わせていなかった。だったけど…。

つくれつくれとその連中は(また)言った。ほんとうかよ、と思った。ほんとうに食べたいと思っているのか、と。おもしろがって言っているだけじゃないか。まあいいや、と思った。今回も乗せられて(というか観念してというか)製作した。それも2台。

ラフランスをのっけて焼いた。ドライいちじくをラム酒に漬けたものを、アーモンドクリームに混ぜ込んで焼いた。いちじくを加えるのは、食感の幅が広がる感じで個人的には好ましかった。定番にしてもいいかもしれない。


ハンドルグリップの交換/美しい男の子

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街乗り・通勤用のミニベロですが、ハンドルグリップの交換をしたのでした。ついでにシフターとブレーキレバーも交換。ハンドル回りをリニューアル。

この作業は春くらいにやろうと思っていたのでしたけどね。パーツも買いそろえていながらも放っておいたのでした。秋も深まって自転車もそろそろ終わりというころになって、ようやく。だいたいこういった作業がそんなに好きでもないというか、億劫な質なのもので…。

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グリップはエルゴンのGP2。グリップを取り付ける前にハンドルバーをパイプカッターで切断するなどした。なんとなくハンドル幅を短くしたい気がした。もっと短くてもいいかもしれない(見た目的に)。

このグリップは、かなりいい感じです。手のひらをグリップに預ける感じで、非常に楽に感じる。バーエンドもついているので、持ち方を変えられるのがいい。

シフターはレバーとボタンで親指1本でシフトできるやつに。以前はグリップ式のねじるタイプのものだったが、操作はこちらの方が楽。ギアが正確にスパスパ入るかというと、前とあまり変わらない。

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これは春に取り付けたドッペルギャンガーのチェーンホイールとクランクのセット。歯数は52T。これでけっこう走りやすくなった。ブレーキもシマノのDEOREに換装しています。

そして今回、ハンドル回りを一新。全体的に黒いパーツが増えて見た目も精悍に。

ちなみに、ダウンチューブの”bel ragazzo”というのは、イタリア語で「美少年」という意味らしい。

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二口峠の方へ

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その日は都合により、天童の総合運動公園からのスタートだった。朝は曇りのような霧のような、視界の霞む空気だったが、自転車で走り出すころには眩しい日差しが出ていた。観光客で賑わう山寺を通り過ぎて、さらに山の奥地の方、噂に聞く二口峠へ。

つづら折りの山道をせっせと上る。ギアを軽くして自分のペースで走っていれば気持ちがいい。以前のように「うげえ、こんなの無理…」と思うことはそんなになくなった。だけどその自分のペースというのが甘すぎるというか、もう少し追い込んで走らないと速くなれないよね…と一方では思っているのだが。

山寺から1時間くらい、あるいはもっとかな、県境ゲートに辿りついた。宮城県側は未舗装路。背中のポッケに入れてきた羊羹を食べて、折り返した。ダウンヒルは恐ろしい。景色の良いポイントでもう一度止まって見ていこうと思っていたが、止まることすら困難。途中、道に迷いつつも運動公園に帰着。

 

ところで、この11月3日のことを書いているいまは11月30日で、いつのまにそんな日数が経ってしまったのかと愕然とする。時が流れたというよりも、その間の日々がそのままそっくり消滅していったかのようだ。自転車も乗らなかった。前回自転車に乗ったのが一ヶ月近くも前のことだなんて!

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紅玉のアーモンドケーキ(フラワー型)

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製菓材料店のCOOKS-81からセールの案内が届いていたので、何も買わなくていいのだけどと思いつつも覗きに行ってみたら、やっぱり製菓用品というのは見ているだけでもおもしろくて、あっちを見たりこっちを見たりといつまでも店内をぶらぶらしている始末であった。とはいっても、けっきょく買ったのはフラワー型のケーキ型くらいだったけど。あとは普通に使うアーモンドプードルとグラニュー糖などを調達した。

さっそく新しい型を使ってみようかと思って焼いたのは紅玉のアーモンドケーキで、ちょうどプチノエルのシェフが作っていたのをFacebookで見て、真似をして作ったのだった。味も真似できればいいのに。まあでも、これでもけっこうおいしい。見ての通り、気泡が目立ってせっかくのフラワーが台無し、といういかにも素人っぽい出来でも、ね。りんごの甘酸っぱい果汁がアーモンド粉にしみ込んだおいしさというのは、減らそうと思っても減らせられるものでもなかったりする。


あの日見上げた空はコバルトだった、大地は招いていた

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蔵王ダムまで。蔵王ダムは、山間にひっそり佇む要塞みたいで異様な雰囲気だった。

コースとしては一本道を行って折り返すだけの単純なコース。そういえば、このへんは高校のマラソン大会で走ったのではなかったろうか。まさか蔵王ダムまで行ってはいないが、この坂道のどこか途中で折り返したはずだった。

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その校内マラソンでは部活ごとに順位が出るのだが、僕の所属していた美術部は、今はどうか知らないが当時はなぜか毎年のように文化部で一位をとっていたのだった。だから自分たちの代で連覇を途切れさせてはいけない、なんていう妙なプレッシャーがあり、大会前にはくそ真面目に走り込みをするということをやった。少なくとも僕の他に一人か二人は、準備して大会に臨んだんじゃないかな。

まあそんな努力のかいあって、僕たちの代では文化部一位の座を守った。しかし文化部でマラソン一位だなんて、どれだけ誇れることなのだろう。だいたい文化部の連中なんてのはマラソン大会なんかちゃんと走ったりはしないから(仲間内でつるんで歩くか、限りなく歩きに近い速度でちんたら走るか)、何人かが真面目に走るだけでその部は自動的に一位になったのだろうと思う。それでも、僕らはときには真面目になったし、それを楽しんだ。いま振り返るなら臆面もなく輝かしいとさえいいたい高校生活の、思い出す日々の空はいつでも真っ青な晴天だった。今日のような灰色の重い空ではなかったはずだった。

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帰りは千歳山万松寺に立ち寄って参拝してきた。奥の方に阿古耶姫の墓碑があるというので見にいった。苔むした石畳は、ビンディングシューズのクリートにとっては氷と同じだった。つるつる滑って非常に恐ろしかった。

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ジャージが修理から戻ってきた

 

男鹿半島で思いっきりすっ転けたのは8月のことだった。アスファルトの上に吹っ飛ばされて、ジャージに大きな穴があいた。幸いにというかこのメーカーでは落車によるダメージは無償修理してくれるらしいので、穴あきジャージはメーカー所在国のイギリスに旅立っていった、と、ここまでは前に書いた。

その後のこと。忘れた頃にでもないけど季節が夏から秋へと移り変わった頃に、運送屋さんが何か海外からの小包を届けに来たと思ったら、それが修理されて戻ってきた僕のジャージだった。

どんなふうに直したのかなあと見てみると、穴の周辺部分——部分というよりわりと大きな面積を、同じ生地で継ぎはぎする形で直されていた。細かいほつれもていねいに繕ってある。でも、自転車のジャージは体にぴったり合わせたものなので、もしかすると縫い目が気になったりするのかな。まだ袖を通していないのでわからないけど。まあ大丈夫でしょう。

そんなことよりも、この「一つだけ」感はちょっとうれしい気がする。修繕されて戻ってきたこいつは、世界に一つだけのジャージになったのだ。メーカー下請けの小さな工場で働いているイギリスのおばちゃんが、手縫いで直してくれたのだろう。…というのはまったく想像でしかないが。

 

ロンドン郊外。秋になって急に寒さが覆い被さっている。今朝は一段と冷え込んだ、そう思いながらおばちゃんは職場に向かう。同僚とあいさつを交わしながら、いつもの自分の作業台につく。今日は何を縫おうか。世界の各地から送られてきた修理を待つジャージの中から、なにげなく目についた臙脂色のジャージを手に取る。ジャージを広げ、表と裏を交互に見ながら傷の状態を確かめる。どうやって直そうかと少し考えてみるが、悩むほどでもない。直す方法はいくつか思いつくけれども、経験から一つの筋道を瞬時に選んでいる。いちばん簡単な、目をつむっていても間違えない筋道を。

新しい生地をストックしている棚から、ジャージと同じ生地を探し出してきて作業台の上に広げる。はさみで適当な大きさに裁断し、それから計測したサイズに合わせて厳密に形を取る。マチ針でジャージに生地を仮止めする。ミシンの針に糸を通す。

お昼になったので、おばちゃんは作業の手を止める。お茶を入れて、持ってきたチーズとピクルスのサンドウィッチを食べはじめる。同僚の、よくしゃべる年下の女の子の話を聞きながら。

午後からまた自分の作業台に戻り、ミシンをカタカタいわせて生地を縫い付けていく。ミシンの音は心を落ち着かせ、神経を針先へ集中させる。縫いはじめてから完成まではあっという間だ。出来上がったジャージを見ていると、ささやかな満足感を覚えている自分に気づく。穴があいている衣服は、気持ちが悪い。それをちゃんと繕ってやることで、衣服が衣服としてよみがえるのだ。

伝票にサインをして、出来上がったジャージを「修理完了」と書かれた棚に置く。そしてまた、すり切れたジャージを一つ選んで持ち場に戻る。でも今日は一仕事してしまったから、明日から始めようかと思う。熱いお茶を入れ直して、隣の女の子に渡す。時間までおしゃべりでもしましょう、というように。

 

おばちゃんは、ミシンを扱いながら、このXSサイズの小さいジャージを着る自転車乗りのことを思っただろうか。東北の、男鹿半島の空気の匂いを嗅いだろうか。ジャージに聞いても答えは返ってこない。